バリアフリーマップづくりで自治体が企業と組むときの進め方。株式会社T.D.Sの事例も

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「バリアフリーマップを作ることになったんですが、どこから手をつければいいですか」

障害者雇用の相談で自治体の福祉課にうかがったとき、打ち合わせが終わってから、こう切り出されることがあります。

はじめまして、中井敦子と申します。
社会福祉法人の就労移行支援事業所で8年間ジョブコーチをして、その後メーカーの人事部で6年間、障害者雇用の担当をしていました。
いまは独立して、中小企業の障害者雇用の立ち上げと定着支援を仕事にしています。

本業の合間に全国の特例子会社を見学して回るのが習慣になっていて、これまで訪問した会社は100社を超えました。
その関係で、自治体の福祉課の方とお話しする機会も多いのです。

冒頭の相談は、本当によく聞きます。
そして話を聞いていくと、困っているのは「地図の作り方」ではなく、「誰と、どういう体制で作るか」であることがほとんどです。

この記事では、自治体がバリアフリーマップを作るときに外部の企業や団体と組む場合、どういう順番で何を決めればいいのかを整理します。
国が公表しているマニュアルや調査結果を根拠にしながら、発注先の探し方や仕様書に書いておくべきことまで書きました。
最後に、障害のある社員自身が現地調査に加わる体制を持つ会社の例も紹介します。

バリアフリーマップは「作れない」より「続かない」で止まっている

まず、全国の状況を数字で見ておきます。

国土交通省総合政策局安心生活政策課が令和元年11月に公表した「バリアフリーマップ作成に関するアンケート調査 結果報告等」があります。
全国1,741の地方公共団体を対象に2019年9月から10月にかけて実施された調査で、回答率は72.1%(1,256件)でした。

この調査で、バリアフリーマップを作成していないと答えた851団体に理由を聞いています。
最も多かったのは「作成方法が分からない」で45.0%。
次いで「作成の必要性を感じていない」が39.1%でした。

ここで注目したいのは、すでに作った団体(136件)の側の数字です。

情報の更新頻度を聞いた設問では、「直近1年以上更新していない」が41.2%を占めました。
定期的に更新しているのは19.9%にとどまります。

つまり、5団体に2団体は、作ったマップを1年以上さわっていない計算になります。

担当者が挙げている課題は「お金」だけではない

同じ調査から、作成時と更新時の課題を並べてみます。

場面課題回答率
作成時作成にかかる費用の確保43.4%
作成時情報の正確性の確保39.0%
作成時情報提供の体制や仕組みづくり33.8%
作成時作成にかかる人材の確保30.9%
更新時情報更新の体制や仕組みづくり53.7%
更新時情報の正確性の確保49.3%
更新時情報更新作業に要する労力47.8%
更新時運営や更新にかかる費用の確保43.4%

更新の課題で1位になっているのが「体制や仕組みづくり」だという点が、この表のいちばん大事なところだと私は思っています。

お金の問題であれば予算要求で戦えます。
しかし体制の問題は、担当者が異動すればまた振り出しに戻ってしまう性質のものです。

数字の詳細は、国土交通省のバリアフリーマップ作成に関するアンケート調査 結果報告等(PDF)で確認できます。

国のマニュアルは「自治体だけで抱えなくていい」と書いている

「外注していいものか」と迷う担当者の方がいます。
市民の税金で作るものだから、市の職員が自分たちで調べたほうが誠実ではないか、と考えるのですね。

その気持ちは分かるのですが、国の考え方はもう少し現実的です。

国土交通省が令和2年3月に公表した「”みんなでつくる”バリアフリーマップ作成マニュアル」に、こういうコラムがあります。

丁寧な情報収集・情報提供を心がけるほど、自治体内部のみでは抱えきれないとの声もあります。あらかじめ、地域団体や民間企業等との連携を検討することで、継続的な情報提供が可能になることもあります。

見出しは「市町村以外がバリアフリーマップ作成の主体になることについて」です。
国のマニュアルが、自治体だけで抱えるなと書いているわけです。

ただし、同じコラムには続きがあります。
「自治体から事業者に情報提供の協力を呼び掛けるなど、継続的な情報提供のために適切にサポートは不可欠です」。

丸投げはできない、という釘の刺し方です。

実際、7割以上の自治体が外部と組んでいる

同じマニュアルには、先ほどのアンケート結果を踏まえた記述もあります。

  • バリアフリーマップを作成している地方公共団体の7割以上が、施設管理者や障害当事者等の関係者にも声をかけて作成に関与してもらっている
  • 作成・改訂には、市区町村の福祉部局が8割以上関与している
  • 高齢者や障害当事者が関与した事例は約半数

外部と組むのは例外ではなく、むしろ標準に近いことが分かります。

このマニュアルは全46ページで、作成の流れが準備段階・検討作成段階・管理段階の3つに整理されています。
これから着手する自治体の方は、国土交通省の”みんなでつくる”バリアフリーマップ作成マニュアルを先に一読しておくと、庁内の合意形成がかなり楽になるはずです。

自治体が企業と組むときの5つのステップ

ここからが本題です。
私が自治体の方から相談を受けたときに、実際にお話ししている順番で書きます。

ステップ1 相手を探す前に、目的と対象エリアを決める

いちばん多い失敗が、目的を決めないまま業者を探し始めることです。

「観光客に使ってほしいのか」「市内に住む車いすユーザーの日常の移動を助けたいのか」「災害時の避難ルートを想定するのか」で、載せるべき情報がまったく変わります。

観光目的なら駅から名所までの経路と多機能トイレの位置が要ります。
日常の移動が目的なら、スーパーや病院、歩道の勾配や段差の情報のほうが優先度が高くなります。

目的が決まると、必要な部署も見えてきます。
福祉部局だけで完結する話ではありません。
歩道や公園の情報を扱うなら道路や公園の部署、民間店舗の情報を載せるなら商工担当と、先に話をつけておく必要があります。

ステップ2 「作成」ではなく「作成+更新」で発注する

先ほどの数字を思い出してください。
更新の課題の1位は「体制や仕組みづくり」でした。

ここへの答えは、実は発注の仕方の中にあります。

東京都新宿区は2019年に、バリアフリーマップ作成業務を公募型プロポーザルで発注していますが、委託の内容に「作成後の管理保守」を含めています。
作って終わりの契約にしていないわけです。

三重県伊勢市の伊勢バリアフリーマップは、観光振興課と伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが組んで作っていて、掲載情報や写真を毎年、各施設の管理者に直接確認しているそうです。
この毎年の確認を「情報更新のためだけでなく、施設管理者に対する啓発につながる」と位置づけている点が見事だと思いました。

仕様書に書いておきたいのは、次のような項目です。

  • 公開後、何年間、どの頻度で情報を更新するのか
  • 更新の依頼を誰が出し、誰が作業するのか
  • 施設側から変更の連絡が来たとき、何日以内に反映するのか
  • 契約終了後、データを自治体側でそのまま使える形式で引き渡すか

最後の項目は忘れられがちですが、事業者を変えるときに効いてきます。

ステップ3 当事者が調査に入る体制を、仕様に書く

これが私のいちばん言いたいところです。

段差が2センチあるとして、それが「越えられる段差」なのか「引き返す段差」なのかは、車いすを使っていない人には判断がつきません。
電動か手動か、介助者がいるかどうかでも変わります。

現地調査を健常者だけで行うと、この判断が丸ごと抜け落ちます。

だからこそ、調査する人の属性を仕様の中に位置づけておくことに意味があります。

書き方としては、たとえばこうです。

  • 現地調査には、車いす使用者を含む障害当事者が調査員として参加すること
  • 調査項目の判定基準を事前に文書化し、複数の調査員の間でそろえること
  • 視覚障害、聴覚障害など、複数の障害種別の視点から確認を行うこと

国が公表している資料も、この方向を後押ししています。
バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会が令和7年6月に公表した最終とりまとめでは、ICTを活用した情報提供サービスの開発に関して、当事者参画には意見聴取だけでなく「当事者が開発するという参画方法(障害者雇用、特例子会社等)もある」と明記されました。

第4次バリアフリー整備目標の内容とあわせて、国土交通省の第4次バリアフリー整備目標の最終とりまとめに関する報道発表で読むことができます。

ステップ4 発注先には、いくつもの類型がある

「バリアフリーマップの業者」という業種があるわけではありません。
実際に手がけているのは、次のような顔ぶれです。

類型得意なこと気をつける点
地図・測量会社地図データの精度、経路情報の整備当事者視点は別途確保が必要
GIS・システムベンダーWeb版の構築、更新しやすい仕組み紙版の編集は不得手なことがある
障害者雇用企業・特例子会社当事者による調査、データ入力対応できる範囲を事前に確認
当事者団体・NPO現場感覚、継続的な関わり体制の規模と継続性を確認
社会福祉協議会地域のボランティアとの連携印刷や電子化は外部と組む形に

千代田区の「ちよだバリアフリーマップ」は、NPO法人の協力を得て、車いすの利用者や大学生、企業のボランティアが実際にまちを歩いて調査する形をとっています。
府中市の「むさし府中バリアフリーマップ」は、市民団体からの企画提案を受ける行政提案型協働事業として、市民団体、地図会社、シビックテック団体、障害福祉の団体などが一緒に作りました。

一社に全部を任せる必要はありません。
調査は当事者が入る体制の会社、Web化は別のベンダー、という組み合わせも十分あり得ます。

ステップ5 公開したあと、使われているかを測る

作って公開した時点で、担当者としては一区切りついた気持ちになります。

ただ、実際に使う人に届いているかどうかは、別の問題です。
バリアフリーマップの存在自体を知らない当事者は少なくありません。

年に一度でいいので、次のことを確認する仕組みを最初から組み込んでおくことをおすすめします。

  • 障害当事者団体に、使ってみた感想を聞く場を設ける
  • Web版であればアクセス数と、よく見られている地域を確認する
  • 施設側から寄せられた修正依頼の件数と、反映までの日数を記録する

この記録が、次の予算要求のときの材料になります。

障害のある社員が調査員として入る会社もある。株式会社T.D.Sの例

ステップ3で書いた「当事者が調査に入る体制」を、会社の仕組みとして持っているところがあります。

東京都府中市に本社を置く株式会社TDSは、地理情報システム(GIS)のデータ作成や測量を手がける会社です。
1985年に東京都と国際航業株式会社の共同出資で、東京都初の第三セクター方式の「重度障害者雇用モデル企業」として設立され、2008年に国際航業の特例子会社となりました。

同社の会社概要によれば、従業員46名のうち32名が障害のある社員です(2025年6月現在)。
採用情報のページでは、内訳は身体障害者17名、精神障害者15名と公表されています。

特徴的なのは、事業のメニューにバリアフリー調査とバリアフリーマップ作成が入っていることです。
東京都産業労働局が公開している特例子会社等の業務サービス情報にも、同社のバリアフリー調査サービスが「障害者を現地調査員とした、調査及びバリアフリー評価対応」を含むものとして掲載されています。

同社の公式サイトには、実際に手がけた商品として小金井市の福祉マップ「街で出会うこころのマップ」(平成20年4月発行)の表紙が掲載されています。
奥付には、調査・制作として同社の前身にあたる社名と、現在と同じ府中市晴見町の住所が記されていました。
このマップは、東京都福祉局が公表している区市町村バリアフリーマップ一覧にも「市民の協力を得て作成」と記載されています。

会社の成り立ちや事業内容の詳細は、株式会社T.D.Sの会社概要ページにまとまっています。

発注側から見たときの制度的なメリット

自治体の立場でこうした会社と組む場合、制度の後押しがあります。

障害者優先調達推進法では、特例子会社や重度障害者多数雇用事業所も調達の対象に含まれます。
東京都のように、特例子会社が対応できる業務のリストを公開している自治体もあり、発注先を探す入口として使えます。

もうひとつが、厚生労働省の「もにす認定」です。
障害者雇用の取り組みが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度で、令和8年3月31日時点の認定は611事業主。
先ほどの株式会社TDSも、令和5年9月に認定を受けています。

この認定を受けた事業主は、地方公共団体の公共調達や、国および地方公共団体の補助事業で加点評価を受けられる場合があります。
制度の詳細は厚生労働省のもにす認定制度のページに説明があります。

ただし、国の公共調達では加点が認められていないという但し書きがついています。
このあたりは、実際の調達を担当する部署に事前に確認しておいてください。

なお、民間企業の法定雇用率は2026年7月から2.7%に引き上げられ、対象となる事業主の範囲も従業員37.5人以上に広がっています。
障害者雇用に取り組む企業と組む機会は、これから増えていくはずです。

まとめ

バリアフリーマップづくりで自治体が企業と組むときの進め方を、5つのステップで整理しました。

  • 相手を探す前に、目的と対象エリア、関係する庁内部署を決める
  • 「作成」ではなく「作成+更新」で発注し、更新の担い手を契約に書き込む
  • 現地調査に障害当事者が入る体制を、仕様の中に位置づける
  • 発注先の類型を知り、必要なら複数の相手を組み合わせる
  • 公開後に使われているかを測る仕組みを、最初から入れておく

全国の調査で、作ったマップの4割強が1年以上更新されていないという結果が出ています。
この数字を見て「うちも同じになりそうだ」と感じた方こそ、最初の設計をやり直す価値があります。

マップは作ることが目的ではなく、その情報を頼りに誰かが出かけられるようになることが目的です。
そこから逆算すれば、誰と組むべきかは自然と決まってくるはずです。

まずは国土交通省のマニュアルを庁内で回覧するところから始めてみてください。
それだけでも、庁内の議論の質が変わります。

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